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AAV-CRISPR/Cas9システムがLDLR突然変異による動脈硬化症を効果的に改善できる

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2020年11月02日

家族性高コレステロール血症(FH)の特徴は低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)のレベルが著しく上昇し、心血管疾患が早期に発生することである。FHは一種の常染色体優性遺伝病で、遺伝子線量効果があり、低密度リポタンパク質受容体(LDLR)、アポリポ蛋白B(APOB)、またはプロ蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)をコードする遺伝子の突然変異によって引き起こされる。ここで、90%のFHはLDLR突然変異によって引き起こされる。LDLRの突然変異は機能性LDLRの発現レベルが低く、肝臓が血液循環におけるLDL-Cの除去能力が低下し、さらに血液循環におけるLDL-Cの過剰をもたらし、それによって動脈硬化プラークの発生と発展をもたらす。動脈硬化症の重症度は肝臓組織での低密度リポタンパク質受容体のレベルと活性と密接に関係している。

 

ほとんどの国において、ホモFH(HoFH)の発症率は百万分の一であり、乳幼児期に急速に悪化したアテローム性動脈硬化と心血管疾患に発展し、早死を招く。ヘテロFH患者(HeFH)は機能性LDLRタンパク質を持っているので、現在のFH薬物治療(例えばMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン系)は通常HeFHのみに対して有効であるが、高強度のスタチン系薬物とPCSK9阻害剤はHoFHへの治療効果に非常に限度がある。これらの違いは低レベルのLDLR発現と活性でもFHの重症度と発展速度に著しく影響できることを示している。

 

CRISPR/Cas9システムは有効な遺伝子編集ツールであり、DNAレベルで病理突然変異を補正することができ、遺伝子欠陥による人類疾患を治療する有望な治療法である。アデノ随伴ウイルス(AAV)は、その高い安全性と安定した長期効果発現のため、最も有望な遺伝子治療ベクターと見なされる。AAVを利用した遺伝子治療は現在80種類以上の疾患治療に承認され、且つ臨床試験に使われている。

 

さらに、今年の有名雑誌《Circulation》に掲載された高得点論文《In Vivo AAV-CRISPR/Cas9-mediated Gene Editing Ameliorates Atherosclerosis in Familial Hypercholesterolemia》をご紹介したいと思います。本論文を通じ、関連遺伝子と疾患との関連性を研究するために遺伝子編集マウスモデルをどのように応用するか、また、疾患に対する遺伝子治療の有効性を評価するために遺伝子マウスモデルをどのように利用するかについて、さらに説明したいと思います。

AAV-CRISPR/Cas9システムがLDLR突然変異による動脈硬化症を効果的に改善できる

 

1. 家族性高コレステロール血症(マウスモデル)

本論文では、まず著者は、家族性高コレステロール血症の臨床ホモ接合体患者から、E207Xなどの低密度リポタンパク質受容体(LDLR)の未知の新規変異をスクリーニングし、変異LDLR遺伝子の発現がその機能変化と関連していることをin vitro細胞実験で検証した。では、この新たに発見された点変異と家族性高コレステロール血症や動脈硬化との深い関係をどうやって確認するのか。筆者は、in vitro実験の結果だけでは説得力がないことに気づき、ヒトLDLR-E207X点変異をマウスで複製し、この新たな変異と疾患発症との関係を調べることを計画した。そして著者は、LDLR-E208X点突然変異マウスモデルの作製をサイヤジェン株式会社に委託された。LDLR-E208X点変異マウスモデルを構築することで、臨床患者におけるLDLR-E208X点突然変異と高コレステロール血症や動脈硬化との因果関係が示されただけでなく、マウスモデルが確立された。

図1.大動脈粥状動脈硬化のオイルレッドO染色影像及びマウスの血液プラズマ総コレステロール、総トリグリセリド、LDLコレステロールレベルの対比

図1.大動脈粥状動脈硬化のオイルレッドO染色影像及びマウスの血液プラズマ総コレステロール、総トリグリセリド、LDLコレステロールレベルの対比

図1.大動脈粥状動脈硬化のオイルレッドO染色影像及びマウスの血液プラズマ総コレステロール、総トリグリセリド、LDLコレステロールレベルの対比

 

2.AAV-CRISPR/Cas9 遺伝子治療

このマウスモデルに基づいて、著者は、この疾患に対する遺伝子改変療法の可能性と有効性をさらに研究した。肝臓特異的血清型AAV8ベクターとしたCRISPR/Cas9遺伝子治療技術を用いて、AAV8-Cas9、AAV8 gRNA、正常LDLRドナーの肝臓特異的発現ベクターをそれぞれ構築し、生まれたばかりのLdlr-E208X点突然変異マウスに皮下注射を行った。そして、生まれたばかりのLdlr-E208X点突然変異マウスにベクターを皮下注射して治療した。その結果、AAV8-CRISPR/Cas9がin vivoでのLDLR 修復療法に一定の効果を発揮することが示された。臨床患者における新たな病原遺伝子の可能性の発見から、点突然変異マウスモデルの構築まで、点突然変異と疾患との深い関係を検証した。さらに、AAV8-CRISPR/Cas9遺伝子治療が疾患表現型を緩和することを実証した。最後に、本疾患の病因と治療仮説を提示した。本論文は、研究の考え方や戦略、そして技術的な方法に至るまで、今後の遺伝子編集マウスモデルの応用、関連遺伝子の機能研究、疾患モデルの確立、治療法やその効果の評価などの参考になるものである。

図2.AAV-CRISPR/Cas9で治療されたLdlrE208XマウスのLDLR発現の一部分の回復と動脈粥状動脈硬化の改善

図2.AAV-CRISPR/Cas9で治療されたLdlrE208XマウスのLDLR発現の一部分の回復と動脈粥状動脈硬化の改善

 

革新点:

1. ヒト家族性高コレステロール血症の発症メカニズムの研究にE208Xのナンセンス突然変異を含むLdlrE208Xマウスの新たなモデルを提供した。

2. AAV-CRISPR/Cas9一回注入でLdlrE208Xマウスを体内遺伝子編集すると、脂質の蓄積を減らして動脈硬化症を改善することができる。

 

原文検索:

In Vivo AAV-CRISPR/Cas9-mediated Gene Editing Ameliorates Atherosclerosis in Familial Hypercholesterolemia. DOI:10.1161/CIRURCHA1191:042476.

 

サイヤジェン株式会社について

サイヤジェン株式会社は15年間の発展を経て、全世界の数万人の科学研究者にサービスを提供しており、製品と技術は直接にCNS (Cell、Nature、Science)の定期刊を含む5,200余りの学術論文に応用されています。弊社の「ノックアウトマウスライブラリ」は低価格だけでなく、遺伝子名称を入力すれば、ワンクリックで注文まで操作できます。 ノックアウトマウスノックインマウスコンディショナルノックアウトマウストランスジェニックマウスGFPマウス免疫不全マウス無菌マウスなどのカスタマイズサービスを提供する以外、専門的な手術疾患モデルチームがあり、多種の複雑な小動物手術疾患モデルも提供できます。

 

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